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Research Topics

アリの繁殖戦略

アリ類の交尾やコロニー創設の戦略を種間で比較し、その進化過程や適応的意義について研究しています。アリでは、一個体の創設女王が巣に篭って餌を採らないにもかかわらず、幼虫に餌を与える蟄居型創設がよく採用されています。いわば飲まず食わずのワンオペ育児です。このようにとても過酷な蟄居型創設ですが、それができることで採餌中に外敵に食べられるリスクをゼロにするという絶大なメリットがあります。ではこの過酷な育児を伴う蟄居型創設がどのように行われているのでしょうか。

 Kurihara et al. (2022) ではトビイロケアリの創設女王を対象に解剖学的な解析を実施し、胸部に詰まった飛翔筋(翅を動かす筋肉)を分解すること、それと連動して膨らんだ食道 (胸嚢) に油状の餌物質が貯蔵されること、そして食道は膨らみやすいような蛇腹構造をしていることを明らかにしました。飛翔筋を分解して得た栄養を胸嚢に蓄えて与える、という育児戦略に女王アリの形態が適応していると考えられます。

アリのカースト分化機構

アリのコロニーは、繁殖を担う女王と、繁殖をせずに労働をするワーカーにより構成されます。これらのカーストには行動だけでなくその形態にも著しい違いがありますが、その違いは遺伝的な要因で生じるわけではありません。多くの場合、卵から幼虫、蛹の期間に経験する環境条件(例えば幼虫期にワーカーから与えられる餌の量)に応じてそれらの違いが生じると考えられます。そこで同じ遺伝情報から形態や行動の違いを生み出すカースト分化の仕組みについて研究しています。また、幾つかの種では兵隊カーストや中間型女王といった新奇カーストが確認されます。それらの発生の仕組みを研究することで、カーストの進化をもたらした分化機構の変化にも迫りたいと考えています。

アリの労働分業の機構

上記のような女王とワーカーによる繁殖上の分業に加え、ワーカーの間でも労働上の分業がみられます。ワーカーが担う労働タスクは巣内の卵・幼虫・蛹の世話(育児)や女王の世話、巣仲間へのグルーミング、巣の掃除や防衛、採餌など多岐に渡ります。ですがワーカーそれぞれが全てのタスクを同時にこなすのではなく、自身の生理状態やコロニーの状態に応じて1つもしくは少数のタスクにのみ従事します。例えば若齢の個体は育児など巣内でのタスクに従事しますが、加齢に伴って採餌など巣外でのタスクに従事するようになります。そうすることで社会全体としては全タスクが過不足なく遂行されます。もしこの平衡状態が撹乱されて特定のタスクの担い手が不足しても、一部の個体がタスクを柔軟に変更することでその過不足を解消できます。Miyazaki, Chinushi et al. (2021) では育児個体を人為的に除去したところ、採餌を担っていた個体の一部が育児を開始し始めること、の個体の脳内では卵黄形成遺伝子が活性化することを見出しました。​また、Tanaka, Miyazaki et al. (2024) では逆に、採餌個体を人為的に除去した場合に育児を担っていた個体の一部が採餌を開始し、それらの個体の脳内で卵黄形成遺伝子の発現が低下することも明らかにしました。卵黄形成遺伝子はアリの「働き方」を決めるための重要な役割を果たしているようです。

アリ・シロアリの性分化

アリのコロニーを構成する女王とワーカーはいずれもメスで、オスは年に一度の繁殖期にのみ生産されます。オスが働くことはなく、交尾したのちすぐに死亡します。このような行動の違いを反映するように、雌雄の形態は驚くほど違います。雌雄の決定は性染色体によらず、産卵時に受精させられるか否かで決定されるため、雌雄でもっている遺伝子レパートリーは完全に同じです。そこで性分化の仕組みについて研究しています。

 一方、シロアリの社会はオスとメスの両方で構成されます。雌雄で形態が大きく異なることはありませんが、生殖カーストの寿命が異なる場合や兵隊カーストへの分化しやすさが異なる場合があります。そうした違いは性決定遺伝子doublesex (dsx) によって制御されていると予想しています。Miyazaki et al. (2021) では最近解読したヤマトシロアリのゲノム (Shigenobu, Miyazaki et al. 2022) やその他公開されていたシロアリゲノム、姉妹群の亜社会性キゴキブリよりdsxを特定しました。シロアリのdsxでは2つある機能ドメインの片方が見つからないことや、他の昆虫のように性特異的なスプライシング・バリアントを生じるのではなくオス特異的に転写されることを示しました。現在はシロアリdsxが性分化に及ぼす役割について、富山大学と共同で研究を進めています。

その他のテーマ

アリ以外の材料を使った研究も始めています。イチモンジカメノコハムシ等にみられる防御形質の形成過程や、フタホシコオロギの求愛行動に関する研究を進めています。

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